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アパートへの帰り道は静かだった。都内の学生街だったがさすがにこの時間では皆寝てしまったようだ。アパートの入り口には夜桜。今日は特別な夜だって輝く。
帰宅して、弁当を電子レンジで温めた。兄弟は待ちきれないのかたかが三分をそわそわして待っている。そんなにお腹が空いていたのか。
そして温めた弁当を食べた二人は疲れたのだろう、風呂に入り俺の服を着て横になった途端眠ってしまった。知らない男の家だと言うのに声をかけても起きないなんて。小柄な二人には俺の服は大きかったらしく、その隙間から傷痕が見えた。かつて俺を傷つけた親戚の兄弟を思い出す。この二人も虐待でもされていたのだろうか? その痛みと恐怖は容易に想像出来るものだった。きっと東京に来れば逃げられると思ったのだろう。だけどここは本当はそこまで優しい街ではないんだよ。過ぎ去った記憶を持て余しながら、俺は兄弟にタオルケットをかける。そう言えばまだ二人の名前すら聞いてはいなかったな。
面倒なことになってしまった、と言う自覚はある。でも、『あの日』『彼』に救われた俺が見えるから、この兄弟を邪険に扱うことは出来なくて。せめて朝までは疲れた二人に安らかなる眠りを、俺はそこまでひとでなしではないつもりだ。
「おやすみ」
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