16 宿命

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 しばらくの間、桜の景色に夢中になって絵を描いた。人通りの多くなってきた頃、落ち着かなくて家に帰ることにする。その時隣を歩いていたハルが気だるそうにため息をついた。体調が悪いのだろうか、歩いているのも辛そうで。   「あの……」 「ちょっとそこの自販機で水買って来い」  小銭を受け取り慌てて自販機でミネラルウォーターを購入する。それを受け取るとハルはポケットから薬のシートを取り出して数粒無造作に飲み込んだ。    住宅の塀に寄りかかり、そのままずるずると座り込む。   「だ、大丈夫ですか」 「別に病気じゃないから平気、騒ぐな」   そしてひと言、あんたにはわからない『宿命』だよと呟いた。  ◇    その日ハルは仕事を休んだ、隣の部屋で横になっているようだ。襖の向こうから微かに香るこの香りは何だろう。    そっと彼の調子を伺おうと声をかけると彼は大きな声で拒否をする。   「来るな! オレのそばに寄るんじゃない!」 「で、でも、調子が悪そうだから……」 「悪くねえ!」 「でも……」  ふと記憶の底からオメガ、の文字が浮かぶ。   「もしかして……発情期ですか?」  この香りは、オメガのフェロモン。ああ、彼はオメガ。  ハルは言った、宿命だと。    俺は彼の気配を感じながら、いつかの空気を思い出していた。    ◇   「行って来る」 「はい」     
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