278人が本棚に入れています
本棚に追加
真新しい切り花に彩られ、ここに眠る人はきっと愛されている。
それでもどこか孤独を感じるのは何故だろうか。
「だい、ぜん……」
『大前十六夜』そう記された墓標、見覚えのある名前。
ああ、確か『彼』は著名な画家だった。若者に愛され、いまでもこうして忘れられていない。でも、彼は寂しい人だった、優しい顔して笑うのに……。
「あ……?」
大前十六夜、会ったことすらないはずなのに何故その笑顔を知っているのか。
「ああ……!」
『僕はこの世から忘れ去られるのが怖いんだ』
どうして俺は忘れてしまったのだろう。
先生。
もう過ぎ去りし過去の人。
寂しく一人で死んでしまった人……。
あんなに孤独をなにより恐れていたと言うのに。
「ご、ごめんなさい、先生」
こらえきれずその場に脚から崩れ落ちる、そして俺は子どもみたいに声をあげて泣くしかなかった。
◇
それからはどうやって帰ったのか覚えていない。
ただ茫然と夕焼け空に酔いながら、気が付けばアパートの前に立ちすくんでいる。
「おい!」
力の入らない腕をつかんだのは、焦った顔したハルだった。
「お前、どこ行ってたんだよ! 逃げる気にでもなったのか?」
「いや、そんなつもりは……」
「じゃあ、なんで!」
最初のコメントを投稿しよう!