278人が本棚に入れています
本棚に追加
17 春の終わりは
ただ絵を描く日が続いていた。
心の中にある風景は未だ曖昧で、時折見覚えのあるものが見えたりとの一進一退。ハルはこの頃では落ち着いて、たまに柔らかい表情を見せる日もあった。
「おい、なにやってるんだよ」
「あ、おかえりなさい。ハル」
いつの間にか夕方になっていた。一日中絵を描いていたせいか右手は真っ黒。スケッチブックもしわができるほど。
「おかえりなさいじゃないだろ、飯くらい食えよな。身体に悪いだろ?」
「……心配してくれるの?」
「ばか」
本当は優しい、そんなハルの性格もこの頃では理解できるようになった。
共に夕食を囲み、夜は更けてゆく。
食事を終えてまたスケッチブックに手を伸ばした俺に、ハルは待ったと言うように手を伸ばす。
「絵はもういいだろ、少しこれから散歩に行かないか?」
◇
二人で向かうのは住宅街にあるコンビニエンスストア。
夜を迎えてはその道のりに人影もあまり見ることはない。
「なあ、ちょっと昔の話をして良い?」
そう言ってハルは俺を振り向かずに語り始める。
「オレさぁ、以前好きな人がいたんだよね」
「どんな人?」
「背がでかくて絵がすげー上手い人! オレに絵を教えてくれた」
最初のコメントを投稿しよう!