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懐かしい話をするハルは、口調もいつもより柔らかだった。
「でもさ、オレ勇気がなくてデートすら誘ったことねえの。本当は知ってたんだ、そいつが違うやつを見てたってこと」
ハルの失恋、でも悔いが残っているようではなく紡がれる感情はただ優しいものだった。だって振り返ったその顔は笑顔だったから。
「不思議だね、その人は知らなかったのかな。君にだって十分魅力があるのに」
「でも、オメガだぜ?」
「性別は関係ないと思うよ」
ハルはまた前を向いて歩いて行く、月が綺麗な夜だった。
「そいつさー、優しいやつなんだよ。この世に傷ついて生きていけないやつのために、一緒にこの世からいなくなろうとまでしてさ」
そこでハルの足がとまる、うなだれて肩が震えている。泣いているのだろうか?
「みんな、みんなずるいよな。一人のこされた俺の気分になってみろっての……!」
ぱたぱたと地面に水滴が落ちる、ハルのこらえきれない涙だった。
俺の心に何かが染みる、ああこの感情は。
「のこされてしまって……寂しかった?」
ハルは涙でぐしゃぐしゃの顔で振り向いた。
俺とハル、ふたりただ一心に見つめ合った。
空を見上げれば葉桜、そうここは見覚えのある道。
住宅街の公園が見える。
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