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3 捨てた故郷
夢も見ずに眠り、目が覚めたのは早朝6時。昨晩は遅かったと言うのに兄弟はもう起床している。
「ああ、どうした? 早いな」
「おはようございます」
兄は遠慮がちににこりと笑って挨拶を。彼の笑顔は初めて見たかもしれない。その隣の弟はどこかそわそわとしていて落ち着かない。どうかしたのか、と理由を聞こうとしたら弟のお腹が鳴った。
「ふ、またお腹が空いたのか?」
「ご、ごめんなさい」
「別に謝ることじゃないよ、ご飯にしようか」
コンビニに行っても良かったのだけれど先日炊いた米とたまごが残っていたのでとりあえずたまごご飯を用意する。弟はものの数分で平らげてしまい、兄に咎められる。
「お代わり欲しかったら俺のあげるよ」
「本当?」
「こら、ハル」
ハルと呼ばれた弟は嬉しそうに俺のお碗をかけこんでいた。
「すみません、ハル、意地汚くて」
「いいよ、まだ若いんだからお腹も空くだろう」
その言葉に兄は申し訳ない顔して頭を下げる。
「ところで、そろそろ君たちの名前を教えて欲しいのだけどね。別に警察に通報したりしないよ、ただ『名無し』じゃ生活に支障が出てくるからさ」
◇
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