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かつて『三人』で歩いたじゃないか。
瞬間、ハルは俺を音を立てるように抱きしめた。
強く強く、いままでの感情をぶつけるように。
「青山さん! あんた幸せになれ、幸せになれよ……! オレやアキのことは忘れても良いから」
そのとき俺は心の奥底にたどり着く。
ここからは懐かしい顔が俺を見ている、祖父母、大前、そしてアキ。
俺を愛したひとたちはみんなみんな笑顔だった
そして遠く遠く手を振って。
もう戻れない風景、だけどなんて愛おしいのだろう。
『大丈夫ですよ、青山さん』
アキの優しいその笑顔はまるで二人の未来を祝福してるかのよう。
だけどもう……いってしまったね。
「……幸せなるのはお前のほうだよ、ハル」
忘れるものか、お前だってこうしていま生きているのに。
ハルを抱きしめ返し、そっと優しくキスをした。
「ハル」
「青山さん……思い出したのか?」
二人、涙が止まらなかった。
この世に残された俺たちは。
生きなければ、のこされたものとして精いっぱいに。
今年の桜はもう散ってしまった。
けれど春はまたやって来る、生き続ければまた来年も再来年も。
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