3 捨てた故郷

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 兄はアキ弟はハルと言うらしい。年齢はアキが19歳、ハルはまだ15歳だった。上京した俺の年頃と変わらない。    近所のスーパーマーケットの開店時間に合わせて家を出た。本日も晴天、通りすがった公園は家族連れが朝から桜の木の下で花見に興じている。酒盛り目的ではなく、純粋に桜を楽しむのが好きだ。スケッチブックを持っていれば、辺り一面は俺のもの。スケッチブックを開くたび、過去を思い出すことが出来るから。でも、過去にとらわれる自分がたまに嫌になる。まだ俺はそんなものにとらわれなければならないのか。  良い思い出は色あせて、二度と思い出したくないものに限って反芻してしまう。無駄なことだとわかっていた、過ぎ去りしものにいまさら俺は何を求めているのか。   開店直後のスーパーマーケット。品出し途中で売り場は混雑している。カートを引きながら三人で食材の買い出しを。 「何か食べたいものはあるか?」 「カレーライス!」 「君、昨日もカレー食べてなかったっけ?」  ハルはすっかり都会に慣れたのか、ものおじもせずににこにことあたりを見回している。   「こんなでかいスーパーマーケットなんて初めて来た! オレの住んでたとこは小さな商店しかなかったから。本屋もないんだよ」     
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