2 遥か東京

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 両親はおらず、幼少の頃から祖父母に育てられた。厳しい祖父とおっとりした祖母、不幸ではない、幸せだった。時間がゆっくり流れるあの土地が俺の一生を送る場所だと思っていた頃。  学校までは徒歩で1時間かかった。気が向かないときは学校をさぼり、美しいモチーフを見つけてはひたすら一人デッサンを繰り返す、どうかその姿を忘れないようにと。変わった子どもだと言いながらも、祖母は俺の頭を撫でた。人間は一人一人違うから楽しいんだよって。祖父は俺のすることを黙って見守ってくれた。才能のある孫は自慢だと。けれどそうやって人と同じように生きられない俺を受け入れてくれたのはほんの一握りの存在だけで。  学校は楽しい場所ではなかった。昨日見たテレビの話とか、面白い漫画の話とか、誰に憧れて恋をしているのだとか……そんなこと興味はないし、ただいじめの標的にならないように隠れて生活を送ることに必死だった。  そんな俺の心を見透かすように、中学三年生になる頃いじめられることが多くなった。机の中にはゴミが入っている、上履きは隠されて、休み時間にはボールをぶつけられるから身体中はあざだらけ。それでも誰にも言えなかった。言ったところで事態が好転するとは思えなかったし、なによりも祖父母にばれたくない。自分の孫がごみのような扱いを受けていると知ったらきっと悲しむだろう。     
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