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初めて顔を合わせた親戚の家の子どもたちは俺をおもちゃのように扱った。2歳上の双子のアルファの兄弟、顔にだけは傷をつけなかったものの、気に入らないことがあると俺を蹴り飛ばす。共働きで留守がちな両親の代わりに俺を教育すると称してまた暴力をふるう。いまさら新しい土地に来ても友人なんか出来るわけがない。そしてその家では絵すら描くことを禁じられた。勉強をせずにただ絵を描くなんて生意気なことだと。結局俺には何も残ってなどいなかった。続く日々に、人目を避けて泣き続けることに疲れた頃、俺は親戚の家を出る決意をした。
深夜に親戚の家を飛び出した。駅に向かう途中の夜桜の美しさ、ああ、絵が描きたい。もう何か月も描いていないから画力は落ちてしまっただろう。だけどその衝動のまま朝が来るまで絵を描き続けた。絵を描き終わればその街にお別れを、俺はスケッチブックを抱えながら小さなカバンを肩にかけ、始発電車に乗って上京する。
◇
初めての東京は皆生き急いでいる感が否めなかった。まだ15歳の俺に、早急に人生を見つけろと言うほうが無理な話。子どもが一人荷物を抱えて置いてけぼりになって、行き場を失っていることになんて誰も気づくことはなかった。だからと言って警察に保護なんかされたらまたあの家に戻らなければならなくなる。それだけはもう……、全ては捨てたものだから。優しかった祖父母はもう思い出の中にしかいなかった。
夜になり、何となく下車した新宿駅は待ち合わせの人々で混雑していた。眠らない街と言うのは本当のことだったらしい。
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