2 遥か東京

5/10
前へ
/153ページ
次へ
 駅前のごった返す人の間に、一人壁に寄りかかり絵を描いている男性がいた。中性的な顔をした中肉中背で見たところ30代半ばだろうか。彼の描いているスケッチブックが見たくてそっと寄ると、彼はそんな俺をみて微笑んだ。    ◇   「青山、今夜空いているか?」  職場は都内の美術専門学校だった。俺は主にデッサンの授業を受け持っている非常勤講師。給料は良いとは言えず、こんな生活はいつまで続くのかと、自分自身でもその危うさに気が付いてはいる。最近ではもうなるようにしかならないと自分に言い聞かせ、日々をただ静かにこなして行くことだけを考える。それでも時と場所を経ても空しい日々に変わりはなかった。    今日は金曜、週末の気軽さに彼は俺に声をかけたのだろう。   「いいよ、御田。いつもの店で飲むかい?」  同じ学校で彼はデザイン講師をしている、御田保也(みたやすなり)。俺より4つ年上でその麗しい見た目のせいか女子生徒に人気がある。フリーとして彼が手掛けたデザインワークも人気があった。全て俺とは正反対で。 「お前もそのだらだらと長い前髪を切ってもうちょっと服装に気を使えば、人気者になれると思うけどね。アルファなんだろう? 年齢だってまだ25だっけ」 「アルファだけど……なんだよ、いきなりそんな話」 「常々思っていることだ。お前は綺麗な造りの顔してるし、背も高い。もう少し身体に肉でもつければ完璧だな」     
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

278人が本棚に入れています
本棚に追加