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1 喪失の部屋
「許さないよ、全てを忘れてお前だけが幸せになるなんて」
俺は何を忘れているのあろう。
奥底で聞いたその言葉の意味を俺は知らない。
◇
無音の目覚め、布団ではなく畳の上にじかに寝ているから腕に跡が付いている。起床した部屋は暗く、まだ朝が訪れていないのかもしれない。カーテンはきっちりしめられていた。
毎日のことだ、それにこの部屋の時計は壊れている。
「おい」
微睡む間も無く、すぐに一人の男が部屋に入って来た。彼に俺は監視されている、そう言って間違いはないだろう。家にいる間の彼の視線はずっと俺に注がれていたから。彼はほどんど会話もせずに俺をただ睨みつけていた。俺は彼に何かひどいことでもしたのだろうか。
「まだ何も思い出さないか?」
「……すみません」
そう、俺は自分の名前だけではなく、目の前の男もこの部屋にいる理由からして覚えてはいなかった。俺にとってのぼんやりとした毎日、彼はそれが気に入らないもののようだった。
「食事」
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