倉知編 「第二ボタン」

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倉知編 「第二ボタン」

※かならず「電車の男」の番外編を先にお読みください。  卒業したら、一緒に暮らす。約束したその日が、ついに来た。  長かったのか、短かったのか、わからない。ずっと待ちわびていた。  高校三年生の一年間、加賀さんと一緒に暮らすことばかり考えていた。  あと一年、あと半年、あと一ヶ月、そして今日、やっと卒業できる。  卒業式のあと教室に戻り、写真を撮ったり、卒業アルバムに寄せ書きをしたり、友人たちと思い出話をしている間も、ぼんやりと加賀さんのことを考えていた。  早く、会いたい。でも今日は平日で、加賀さんは仕事だ。夜も遅いだろう。多分、会えない。 「先輩」  肩を叩かれて、我に返る。振り向くと、一年女子のマネージャー、睦美が胸に色紙を抱いて、立っていた。 「考え事ですか?」 「いや、うん、何?」  睦美の後ろで、女生徒と丸井が抱き合っている。バスケ部のもう一人のマネージャーで、丸井の彼女だ。 「卒業おめでとうございます。これ、部員からの寄せ書きです」  礼を言って色紙を受け取ると、少しためらいがちに「あの」と言った。 「送別会、来られますか?」     
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