加賀編 「暗雲」

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 席を立とうとする倉知を止めて、「いいから、話して」と微笑んだ。倉知は情けない顔で俺を見て、「はい」と観念する。 「あの、昼間の友達、橋場っていうんですけど」  箸を置いて、背筋を伸ばした倉知が語ったのは、大体が想像通りだった。  友人の橋場には、同棲している相手がいることは話してあるものの、それが男だとは教えていなかったそうだ。常日頃、散々のろけてきて、付き合っている相手が「加賀さん」だと名前も出してきた。  橋場の中で「加賀さん」はきっと、年上の魅力的な美女でイメージが固まっていたのだろう。  だから今日、俺を「加賀さん」と呼んだとき、困惑したが、すぐに理解したのだ。  同棲相手は男だったのだ、と。  そして、あのあとすぐに忠告してきたそうだ。  男同士で付き合うのは、リスクが高い。だから別れたほうがいい。  そんなことを言われて、はいそうですかと素直に聞くはずもない。 「別に、喧嘩した、とかじゃないんです。男だって言わなかったことを怒ってるとかでもないし」  暗い目を手元に落として、倉知が言った。 「橋場はすごく真面目で、正義感がやたら強くて、だから良かれと思って、俺のためを思って、言ってるんだと思うんです」 「うん」  考えながら喋る倉知を、応援する意味で相槌を打つ。     
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