加賀編 「初夜は蜜の味」

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 揺すられて、慌てて倉知に抱きついた。ごめんなさい、好きです、と止まらない倉知が果てた頃に、急激に眠気が襲ってきた。 「もう、駄目、眠い……。一時間後に起こして」  なんとかそれだけ言い置いて、意識を失った。 「加賀さん」  耳元で控えめな倉知の声が呼びかけてくる。 「起きてください」 「一時間後って言っただろ」  眠くて目が開かない。 「一時間経ちました」 「え」 「朝ご飯、一応用意しましたけど……」  起き上がると、ベッドの上だった。 「食べますか?」 「そんな時間ない。シャワーしてすぐ出るわ」  ベッドから飛び降りて、バスルームに向かう。頭からシャワーを浴びて、適当に髪と体を洗い、脱衣所に出ると倉知が俺のネクタイとスーツを抱えて立っていた。 「すいません、俺……、加賀さんのこと、大事にするって言ったのに」  しょんぼりする倉知を放置して体を拭く。 「初日から寝かさないで仕事に送り出すとか、全然大事にできてない、ですよね」  答えずに、黙々とワイシャツを着て、パンツを履く。スラックスに脚を通し、ベルトをはめて、鏡を見ながらネクタイを締める。最後に倉知がポケットから腕時計を取り出して、渡してくる。用意がいい。鏡越しに、倉知の落ち込んだ様子を見て、口元が緩んだ。 「いいよ」     
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