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そこは、いつもと同じはずのホームルームだった。 すん、すん、と、前から右から、鼻をすする音が聞こえる。 横の席を見ると、そこにいた生徒はハンカチで顔を押さえてむせび泣いていた。 他の生徒もみんなそうだ。まるで、何かの宗教団体かのように、みんながみんな同じ行動を取っている。みんながみんな泣いている。 一体どうしたというのだろう。 教壇に立つ、四十過ぎの女性教師が、やつれた顔で、俯きがちに口を静かに開いた。 「葬儀は、木曜日に行われるそうです」 はて。葬儀とは何のことだろう。 それを聞いたみんなの流す涙が多くなる。 ハンカチで顔を覆う者、大声をあげて泣きじゃくる者、机にうつ伏せて嗚咽を繰り返す者。クラス中が、グレーとブルーの空気に包まれていた。 何故、このクラスで私だけ泣いていないんだろう。 一体、何が…何が…何が…――――――あ。 そうだ。 ハシ先は、電車のホームから落ちて、亡くなってしまったのだ。 一体、この光景を見たのは、何度目だろう。 そうだ。私は、ずっと、ここから抜け出せないでいる。
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