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『そう。どこに行ったって、幸せは必ず落ちている。』
優しい、どこまでも優しい彼の声だった。
心の奥がじんわりと熱くなる。懐かしい、もう二度と聞けない、あたたかな声。
「どこに行ったって、幸せが落ちてる…」
先生の言葉を反芻してみる。
彼は、何がいいたかったのだろうか。
もしかしたら、彼の居ないこの世界にも、幸せというものは、落ちていたりするのだろうか…―――。
今の私には、そんなことを考える余裕は…―――。
『中村とか横山も、お前と話したいだけだと思うんだよね。まぁさ、今度そうしてみなって。そしたら、なんかいいことあると思うよ』
また耳の奥で彼の声が鳴った。
彼のおかげで、友達ができた。
周りに目を向けることの大切さを教えてくれたからだ。
ありがとう、ハシ先。
『未来をどうするかじゃなくて、その時その時にある幸せを探す努力をしよう、な?人生、思い通りに行かなくたって、幸せを探せば幸せになれるんだよ』
先生のおかげで、理想に固執せずに済んだ。
今を生きることの大切さを教えてくれてありがとう、ハシ先…―――。
その時、私はハッとした。
頬を一筋の涙が伝う。
「そうだ…」
私はそっと、ヘッドマウントディスプレイの終了ボタンに指をかけた。
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