18/18
814人が本棚に入れています
本棚に追加
/203ページ
 ひとしきり笑った後、いまさらながら真紘がここにいる理由に思い当たる。  さぞかし呆れ返っているのだろうと思いきや、思いがけず穏やかな声が応じた。 「ああ、姉貴が、共同風呂空いたから良かったらどうぞって。最後の入浴客が出た後だから、どうしてもいつも大体、このくらいの時間になるんだけど」 「あ、そうか、風呂……」  つられて壁掛け時計を見上げると、もう午後十一時近い。帰るも何も、この辺りでは、もうとっくに電車がなくなっている時間帯だった。  けれど、不思議なことに、真紘とふたり、とりとめのない言葉を交わしているうちに、さっきまであれほど全身を支配していた焦燥感はきれいさっぱり消えてしまっていた。 「──なあ」    ふと、真紘が何かを思い付いたように顔を上げる。少しだけ、ためらうふうに間をおいて、それから遠慮がちに提案した。 「その前に、アイス買いに行くの、付き合ってくんない?」
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!