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「……やっぱり、へんなやつだよな、あんた」
思い出し笑いとか、と呆れ気味につぶやいて、真紘の体温がそっと穂高から離れる。
それから、身軽に立ち上がったかと思うと、つと座ったままの穂高の前に手を伸ばした。
「──行こう。これからのこと、みんなで話し合わないと」
「ああ、そうか」
いつもの毅然とした佇まいを取り戻した真紘に安堵して、差し出された手を取る。
わずかに熱を残したてのひらに引かれるようにして身を起こすと、ありがとう、とごく小さなささやきが耳許に落とされた。
「え? 何? よく聞こえなかった」
「……いいよ。聞こえなかったならそれで」
ぶっきらぼうな言葉とともに、ふいとそらされた頬が赤かった。
そのまま、階段を降りていく背中を追って、穂高もゆっくりと屋上をあとにする。
──今日、この場所で生まれたさまざまな感情は、まだ見ないふりをして。
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