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「──そんなわけで、今日からしばらく、早奈英の代打でキッチンに入ってもらうことになった──えーと、名前は……、」 「安積(あずみ)です。安積理人(まこと)」  言葉に詰まった柾の後をぼそりと継いで、安積と名乗った長身の青年がそれと分からない程度に頭を下げた。シンプルなセルフレームの眼鏡が、切れ長の眼差しと相まって怜悧な印象をあたえる。  これまでも、猫のカンナの件などを通じて、穂高も名前だけは聞き知っていたものの、本人を目の前にするのは今日が初めてだった。  と、カウンターに座ってその自己紹介を見ていたミヤ先輩が、お手上げとばかりに大きなため息を吐いてみせる。 「あのさ、柾さん。悪いけどこいつ、いっつもこんな感じなんだよ。何かこう、無愛想っつーか、無表情っつーか」 「俺に愛想がないことで、おまえに何か迷惑を掛けたか?」 「はあ? 掛けまくりだろーがこの野郎! てっめ、まさか忘れたとは言わせねーからな! おまえのせいで、今まで何回、俺が客に頭下げたと思ってんだ!」 「知るか。そもそも、コンビニに愛想を求める方がどうかしてるだろ」  いきり立つミヤ先輩とは対照的に、どこまでも冷静な態度を崩さず、安積がさらりとひとでなしなコメントを放つ。そのやり取りを呆然と眺めていると、同じように隣で傍観していた真紘が小さく吹き出した。 「あれで結構、仲いいんだ。あのふたり」
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