3.女の敵は女

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「本当にごめんなさいね。酔って恰好悪いところを見せちゃったりして」 「いいじゃないですか。呑みに行った時ぐらい本心を吐いたって。僕はああいう正直な彩香さんのことも、・・好きですよ」  好き・・。  素敵な響きの言葉だけれど、今の自分にはそんな純粋な言葉が相応しくないのはわかっていた。  話をそらせたくて、彩香は独白した。 「スキャンダル、ってどうしてこう人々の関心を呼ぶのか、って時おり考えることがある。別に自分に悪さをしたわけでもない、自分の生活とはまったく無関係なタレントや有名人の話なのに、その隠された顔を知りたがる。 そしてスキャンダルを暴かれた人に、謝れ、とか、議員をやめろ、とか、罵声を浴びせたがる。これって、低俗で最低よね」  賢太はしばらく考えてから、折り返してきた。 「人間って、もともと低俗な生き物なんじゃないですか? だからお高く留まっていたり高尚な振りをしている人を見ると、お前、本当は違うんだろう、とかいちゃもんをつけたくなる。上にいる人を、自分と同じレベルに引きずり下ろしたくなる。 そうすることによって安心に浸れたり、あるいは、自分の方がマトモで良かった、と胸を撫で下ろす。他人の不幸は蜜の味、って言いますけれど、まさにそのレベルの人が多いし、変な言い方ですけれど、それが人間味あるってことじゃないでしょうかね」  彩香は賢太の言を噛み締めていた。 「そうすると私達の仕事って、人間味ある低俗な人々を更に低俗な喜びに浸らせる、低俗な仕事、ってわけね」 「それが、いけませんか?」  賢太が足を止めて振り向き、彩香も一緒に立ち止まった。 「少なくとも、高尚な仕事には思えない」 「でも人間的な仕事でしょう? みんな澄ました顔で社会を闊歩しているけれど、実のところは鬱憤とか不安が溜まっていて、どこか満たされず、胸がスカッっとするゲスな喜びを求めている。 テレビドラマで悪役が最後にやっつけられて喝采するのと同じで、スキャンダルは人生の、言わばエンターテイメントです」 「ジャーナリストになるはずだったのに、エンターテイナーに成り下がった、ってことか」  彩香が自嘲すると、賢太が頭を振った。 「真実を追求するジャーナリズムも人々の喜びを追求する娯楽も、ザクっと言ってしまえば表裏一体じゃないでしょうか。
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