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はぁぁぁぁ、と、深い深い深ーい溜め息を吐き出した押本は、無愛想面のまま、「係数はわかりますか?」と聞いてきた。
数学嫌いの俺も、さすがにそれくらいは知ってるよ、と若干怒りを込めて頷き返す。
溜め息を吐きたいのはこっちの方だ。
そもそも、おっさんじゃやる気が削げる、と言ったのは俺だけれど…。確かに、おっさんではないけれども…。
これじゃあ、モチベーションは全く上がらない。
目の前にいるのは、紛れもなく女子のはずなのに。
せめてもう少し、可愛げっていうか…、女子力っていうか…、美意識っていうか…。
残念なことに、色々足りてないと思う。
初日はそんな感じで、前半に理解度の擦り合わせで時間を費やしたせいもあって、プリントの1問目すら説き伏せる事が出来ずに終わった。
帰り際に恐る恐る今後の予定らしきものを確認してみた所、どうやら押本は足立に、放課後最低1時間はみっちり勉強を教えて欲しいと頼まれたらしい…。
「ろくに話したこともない俺なんかの補習に付き合うとか、よく引き受けたね。」と、わかりやすい嫌味を言ってみたけれど、「他人に教えることで、自分の復習になりますから。」と、完璧優等生な答えが返ってきて、思わずドン引きした。
この世にそんな返ししてくるやつが本当に存在していたなんて、俄かに信じられない。
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