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洒落っ気皆無の分厚い眼鏡のフレームを押し上げて、「では、お疲れ様でした。お先に失礼します。」と、どこかのサラリーマンみたいな挨拶をして帰ろうとする押本に、素朴な質問をひとつ。 「ねぇ、押本さんさぁ、前回の数学のテストって、何点だった?」 「はい?」 「いや、誰かに勉強教えられるってことは、相当頭いいんだろーなって。」 「別に、普通です。」 「普通って?」 「普通は普通です。至って変化なしです。」 「ふーん。で?何点?」 「98。」 「…………………………ふーん。」 「なにか?」 「いや、別に。」 「…帰ります。では。」 普通ねぇ…。 ちょっと、あの子感覚おかしいよな?98点なんて、普通じゃないだろ? おばさんが好んで使いそうな、色々入れられて安くて壊れにくそうな、これまたやっぱりダサいショルダーバッグの紐をキュッと両手で握りながら、顔色ひとつ変えずに押本は帰っていった。 会話はひとつも弾まない。見た目は暗いし怖いし圧倒的に地味でダサい。おまけに頭脳レベルがあまりにも違い過ぎて、なんか若干小馬鹿にされている? ヤバい、どうしよう…。 全然、合わないんですけど…。 こんな気乗りしない補習指導が、再来週の追試で成果を出せるとは、到底思えないんですが…。
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