1

8/19

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
押本…? …って、誰だっけ? と思いながら、小さな声で短く返事があった方へ振り向くと、窓際の1番後ろの席にひっそりとその声の主はいた。 足立と入れ替わりで、クラスメイトは全員帰ったと認識していたけれど。まだひとり残ってたのか…。っていうか、存在感、なさ過ぎ…。もしかして、気配消せちゃえる系? 「今日から押本がおまえの指導係だから。ちゃんと言う事聞くんだぞ。」 そう言って足立は、サンダルをペタペタと鳴らしながら、呑気に教室を出て行った。 ポツンと残されたのは、目の前のプリントに猛烈絶望中の俺と、押本とかいう、そう言えば同じクラスにいたかも、ってくらい共通点のない地味な女子。 今時どこに売ってんの?と、敢えて聞きたくなるような分厚い眼鏡を掛けている押本は、音もなく立ち上がり、音もなく移動すると、俺の席のひとつ前の席の椅子をそっと引いて、こちら向きに腰掛けた。 「………………………。」 眼鏡がすっぽりと隠れるくらいの長い前髪。 不健康そうなくらい真っ白の肌。 恐ろしいくらい真っ直ぐな、腰辺りまで伸びた黒髪。 そのサラサラの黒いカーテンで、常に隠されている顔の輪郭。 無愛想に結んだままの薄い唇。 誰も守っているヤツなんていないと思っていた、生徒手帳に載っている身嗜みの規則を、きっちりかっちり守っている、膝下10センチの可愛くない制服。 しかもなぜか白いハイソックス。(まさかこれも生徒手帳に載ってるとか?) 暗い。 古い。 ダサい。 マジでナイ。 あり得ナイ。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加