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押本…?
…って、誰だっけ?
と思いながら、小さな声で短く返事があった方へ振り向くと、窓際の1番後ろの席にひっそりとその声の主はいた。
足立と入れ替わりで、クラスメイトは全員帰ったと認識していたけれど。まだひとり残ってたのか…。っていうか、存在感、なさ過ぎ…。もしかして、気配消せちゃえる系?
「今日から押本がおまえの指導係だから。ちゃんと言う事聞くんだぞ。」
そう言って足立は、サンダルをペタペタと鳴らしながら、呑気に教室を出て行った。
ポツンと残されたのは、目の前のプリントに猛烈絶望中の俺と、押本とかいう、そう言えば同じクラスにいたかも、ってくらい共通点のない地味な女子。
今時どこに売ってんの?と、敢えて聞きたくなるような分厚い眼鏡を掛けている押本は、音もなく立ち上がり、音もなく移動すると、俺の席のひとつ前の席の椅子をそっと引いて、こちら向きに腰掛けた。
「………………………。」
眼鏡がすっぽりと隠れるくらいの長い前髪。
不健康そうなくらい真っ白の肌。
恐ろしいくらい真っ直ぐな、腰辺りまで伸びた黒髪。
そのサラサラの黒いカーテンで、常に隠されている顔の輪郭。
無愛想に結んだままの薄い唇。
誰も守っているヤツなんていないと思っていた、生徒手帳に載っている身嗜みの規則を、きっちりかっちり守っている、膝下10センチの可愛くない制服。
しかもなぜか白いハイソックス。(まさかこれも生徒手帳に載ってるとか?)
暗い。
古い。
ダサい。
マジでナイ。
あり得ナイ。
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