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「あの…、押本?…さん?」 じぃっと俺に課せられたプリントを睨み付けている押本は、下唇を摘んで聞き取れないような些細な声でブツブツと何かを唱えている。なんか、ちょっと怖い…。 完全に蚊帳の外にされている俺は、少し心配になってそっと声を掛けてみた。 もしかして、あまりに難しい問題過ぎて、教える事が困難とか?それならそうと、早いとこ降参して解散!とっとと帰ろうか。 「なぁ、聞いてる?聞こえてる?」 「はい?なんですか?」 「いや…、あの、補習は…?」 「では、始めましょうか。よろしくお願いします。」 「あー…、よろしく。」 なんだよ。やるんかい。なんだったんだよ、あの間は。 「まず1問目は、二項定理の公式を用いて…、」 「ちょ、ちょ、待て待て待て!」 「はい?」 「え?今なんつった?…ニコーテリー?」 「二項定理です。」 「…なぁ、それ、日本語?」 「…………………。」 押本は俺の質問に対しぽかんと口を開けて、呆れた表情でこちらを見上げた。その瞬間、チラッと瓶底眼鏡の隙間から意外と大きな瞳が見えたけれど、すぐにハラリと揺れた分厚い前髪によって隠されてしまった。
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