爪痕

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――やがて、 部屋に、音は、 無くなりました。 口から泡が溢れ、瞳孔は開き、ズボンから尿が漏れ、 手先がピク、ピク、と、跳ねていました。 汚い、汚いなぁと、思いました。 終わった命の臭いに全身が犯されるようで、 気が付くと、私は彼の上で嘔吐していました。 かつて満たされていた筈の部屋は、 暗闇と、 おぞましい臭いとで満たされていました。 ……終わってしまった。 あっという間に。 命は、止まってしまったら、動かないんですね。 そんな当たり前のことに、 ようやく気が付きました。 一体どこで間違ってしまったのでしょう。 確かにそこにあった筈のそれは、まるで白昼夢のように蕩けて無くなってしまっていました。 考えても考えても、答えは出ませんでした。 どれくらいそうしていたでしょう。 いつの間にか、部屋には、 朝日が、射し込んでいました。 ズキリと痛んだ左手を見ると、 深々と、深々と赤く血を垂れ流しながら、 爪痕が残っていました。 ふと、その爪痕を付けただろう彼の手を見ると、 左手の薬指には、 赤く汚れてしまった指輪がありました。 私の分は、どこにやっただろうか。 考えても思い出せません。 きっと、 あの誓いの指輪を付けなくなった日から、 私達は終わっていたのだと思います。 「……馬鹿だなぁ。私」 一人呟いてからよろよろと立ち上がり、 台所にあるナイフをとりだし、 自分の首にそれを突きつけて。 私は。 それを、 ――。
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