爪痕

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一体どこで間違ってしまったのでしょう。 確かにそこにあった筈のそれは、まるで白昼夢のように蕩けて無くなってしまっていました。 「……終わりにしましょう」 「いやだっ……ぁあ! 君は……君は何を、言って……!!」 私の声に、彼はテーブルに頭を何度も打ち付けながら言いました。 涙と涎が其処ら中に飛び散ります。 だから彼には、もう期待しませんでした。 期待したところで、何も生まれはしませんから。 「だってボクはずっと、信じていたよ。待っていたよ。我慢もした。君のことをずうっと想って、ずぅうっと考えていたよ。一番だから。だから待っていられた。君が帰って来なくても、キミがボクを裏切って……そうだ、いつだって裏切るのはキミじゃないか! それでもボクは君を待ってた……!! 愛しているからね。何だって出来るんだよ。だから信じてね、我慢してね、待っていたんだ。そう、ボクはずっとここにいた! それなのに、キミは、それなのに、キミは……うあああ……うぅ、っっぁあ!!」 「……これ、なんだかわかりますか」  シャツを捲り、下腹を彼に見せます。 私のお腹は大きな痣と、縫合痕、それからたくさんのひっかき傷があります。 「これが、アナタの言う愛の形ですよ」 彼はそれを見てイスから転げ落ちて狼狽えました。 「な、何てものを見せるんだよ君はぁああ! 今すぐそれを仕舞えよぉおお!!」  絶叫とも取れる声が鼓膜に響きます。煩わしい。こんな時でも世間体を気にする私は愚かなのかもしれない、そうは思ってもご近所に迷惑をかけてはいけないという思いは消えず、仕方なく彼の言う通りシャツを正しました。 「……と、とにかく、ボクは絶対認めないからな!」 まるで駄々を捏ねる少年のよう。 そう思いました。
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