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プロローグ 出会いの日
窓際の席に座り、スカーレットは手元を見つめている。
掌に置かれたのは、青く光る蝶をかたどった髪飾り。
最愛の人から贈られた、大切な愛の証。
スカーレットは目を閉じて、彼との出会いの日を目蓋の裏に描いてみる。
――はじめまして。僕はエドワード。今日から君と一緒に暮らす者だ。新しいお兄さんだと思ってくれていい。どうか仲良くしてくれ。
エドワードは大きな手を、スカーレットに向けて差し出した。
――はい、よろしくお願いします……お義兄様。
――そんなに緊張しないでいいよ。僕を血のつながった兄だと思って、何でも頼ってほしいんだ。君と仲良くしたいんだ。
3歳年下のスカーレットへ向けて首をかしげ、エドワードは顔を綻ばせた。
青灰色の瞳は、亡くなった母が読み聞かせてくれた、絵本に登場する海を連想させた。
エドワードはこの瞬間から、スカーレットを”君”と呼んだ。愛しい者への呼び方だった。
最初から最後まで、ずっとそう呼んでいた。
そんな彼も、今はもういない。
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