第一章 新しい家族との、穏やかな日常

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第一章 新しい家族との、穏やかな日常

1 ジンジャークッキー  スカーレット・ヘレン・ブラッドバーンはフォクスフィールド伯爵家の屋敷で暮らしている。馬車の転落事故で両親を亡くした五歳のスカーレットを、父親の親友であるフォクスフィールド伯爵が引き取ったのだ。  娘を持たない伯爵とその妻は、愛らしい娘をたいそう可愛がった。 ――不幸な子ども時代を送った君を必ずや良い男性のもとへ嫁がせ、幸せにしてあげよう。 たっぷりの髭をなでながら恰幅のよい体を揺らして豪快に笑う紳士――フォクスフィールド伯爵の言葉に触れると、スカーレットはいつでも心安らかな気持ちになる。妻のマリアは控えめな性格だが、いつもスカーレットに優しくしてくれた。快活なメイドのアマンダや冷静沈着な執事のトマスを始めとする屋敷に仕える者たちも、スカーレットをまるで昔からこの屋敷にいたかのように大切に扱ってくれた。  心を痛めたスカーレットはすぐに、この新しい家族のことを大好きになった。そして何より伯爵の一人息子――見目麗しい容姿のエドワードには、常に尊敬と憧れの気持ちを持って接していた。  エドワードは蜂蜜色の髪に青灰色の瞳をした美丈夫の少年だった。すらりとした体躯にいつも柔和な表情を浮かべていた。彼は幼いスカーレットに優しかった。まるで本当の妹を可愛がるように接した。  たとえば、あれはスカーレットがこの屋敷に来てすぐの、ある初夏の午後。 黒髪にエメラルド色の瞳を持つ闊達な少女は、水色の綿のドレスを泥まみれにして庭園を走り回っていた。 「お義兄様(にいさま)!こちらへ来て」 「わかったよ、すぐに行くからね。一体どうしたっていうんだい?スカーレット」 大きな声で、新しく兄になったエドワードへ呼びかける。するとエドワードは、整った鼻梁と薄く引き締まった唇にあどけない笑みを乗せて、スカーレットに言葉を返す。 「静かにして!お義兄様(にいさま)。ここへ一緒に隠れてちょうだい」 スカーレットは屋敷の塔の影へ、エドワードを引き込んだ。 「スカーレット……?もしかして、何かいたずらでもしたのか?」 エドワードは当惑したような、でもどこかわくわくしたような表情でスカーレットに尋ねた。
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