父親の記憶

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 他の会社に入って五年。父親は亡き人となった。慌しく退職の手続き、地元へ帰り、この何十年もやっているスズ自動車の看板を背負うようになった。二十四といえど、まだ気持ちは学生時のままだ。こんな若造に会社が勤まるのだろうかと孝志は危機感を覚えたが、母や数名の従業員の手もあり、落ち着きを取り戻している。 「っと、こんなもんかな」  ついでに雑巾で看板を綺麗に拭くと、日に照らされそれは輝きを取り戻した。脚立から降りようと後ろ向きで足場を探す。思ったところに足場はなく、するりと自分の足は宙をきった。全体重が後ろにかかり、憎らしいほど軽い脚立は自分もろとも後ろに傾いた。 (やべ、) ガシャン! 「いっ…」  確実に頭部を打つ、と目をつむっていたが強い衝撃はなく。それより気になるのは自分が何かを下敷きにしたような感覚。 「あ…れ?」 「いたた…大丈夫ですか?」  手をついて下敷きになった物を確認しようとするとやけに心地よい声色が聞こえた。勢いよく起き上がると、キラキラという擬音が似合う美形がそこにいた。 「わ、あの、すんません!怪我、してないでしょうか?」     
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