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金星の王子様
質の良い生地のスーツを着ている人物に手を伸ばし、起き上がる手伝いをする。上から下まで怪我がないか慌しく見ていると、笑われてしまった。
「ああ、大丈夫ですよ。いきなり脚立から落ちるもんで、つい手を出してしましたが、余計なことをすみません」
流れるように立ち上がったその美形はゆるく弧を描いて微笑んだ。孝志の身長はどちらかというと普通か少し高いという部類だと思うのだが、孝志が少し見上げる形になるというとはかなりの高身長であろう。190近くはあるのではないだろうか。高級そうなスーツのラインと長い足から、スタイルのよさがにじみ出ている。
(なんだあ…なんか、まぶしい人だな…)
今まで美形やイケメンといった類とは無縁だった孝志はこの男から放たれる光のオーラのようなもを直視することができなかた。
(同じ人間とは思えん…)
「どうかされました?」
不思議そうに顔をのぞかせてくる美形になんでもないですと返答した。
「えっと、何かあとから痛みとか出てきましたらご連絡ください。えっと名刺…」
「ああ、大丈夫です。あの、こちらに用がありまして伺ったところでして」
名刺を工場奥からとってこようとすると呼び止められた。ここに来る予定だった、と男は言った。
「車、壊れちゃいまして」
へへ、と、恥ずかしそうに駐車場に止めてある車を指差す男は、おもちゃを壊した小さな子どものような表情をしていた。
「はは、お客様でしたか。それでは、車のお医者さんにお任せください」
そう言って客である美形の男を事務所に案内した。
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