金星の王子様

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「孝志さん!さっきのイケメン誰っすか!?めっちゃイケメンっすね!なんでここ来るのか不思議なくら、いでッ」 「お前は口動かす前に手え動かせって何度言ってんだ!」  この茶髪の男は眞井坂 俊也(まいさか しゅんや)。仕事のセンスや物覚えは良いのにとにかくやかましい。その口をガムテープで貼ってやりたいと思ったのは、今日が初めてではない。そう思ったのが何度目か数えるのはやめた。 「あ~いいなあ~あんだけ顔良かったら選びたい放題じゃないすか…世の中不公平っす…」 「お前は一人に真剣に向き合うってことしたほうがいいと思うぞ…」  作業をしながら眞井坂の女性関連を思い出しながら口にするとそれは孝志さんの方っすよねとケロリと言い放つ男ににらみをきかせた。 「まーいーさーかあ…俺はお前みたいにとっかえひっかえしてねえだろ!」 「そうじゃなくて、いなさすぎるから一人でもいいから付き合えばいいのにって話ですって!」 (誰でもいいって訳じゃないだろ…)  そう心の中で愚痴りながら追加の仕事を言いつけると渋い顔をしながら作業に戻っていった。仕事の出来栄えは若いながら綺麗な仕事をすると思う。あの口がなければ、なのだが。孝志は黙々と作業場の奥で仕事をする黒髪の男を見やる。あの男のように余計なことを言わない、されど気が利く男であれば俊也にもすぐ固定の良い人ができるのではなないだろうか。  黒髪の短髪で高身長。眉がキリリと整い目は少し切れ長だが優しい目をしている。無口で無表情というのを除けばすぐに女性が周りに集まるタイプだ、と孝志は思う。無口で無表情という部分でなかなか彼からそう言った話は聞かないが。 (まあ人のことより自分のこと心配しねえといけないんだけど)  父親のこともあり、しばらく彼女と呼べる存在はいない。そんな暇なぞなかったに等しい。ぽっかりと空いた穴をそのままに色恋に溺れられるほどの心臓は持ち合わせていないのだ。とりあえず、今は仕事をしなければと頭を切り替え、作業に取り掛かった。  事務所のガラスの壁を通して、若い社長をお茶をすすりながらずっと目で追っている人物がいるとも知らずに。孝志は車の様子をみるのに没頭した。
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