引力の日

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 どこからともなく突然現れて太陽系の仲間入りをしたアール星は、当時の地球人にとって恐怖の象徴だった。  地球よりもはるかに大きいサイズでありながら、地球と月の間をすり抜けるように通過する奇跡的な軌道になってしまったのだ。  アール星は引力がとても強く、地球に接近するたびにあらゆるものを根こそぎ吸い上げていくのであった。悪魔の星と恐れられ、人々はアール星が接近する日に備えてあらゆるものを地面に固定した。  最初こそ怯えていた地球人だったが次第に慣れてくると、これを有効活用することを思いつき、必要の無くなったものをわざとアール星の引力に乗せて処分することにしたのだった。  アール星が地球のそばを通過するたびに、地球は綺麗になっていった。過去にゴミで埋め立てられた土地はすべてゴミを掘り起こして、アール星に飛ばした。 「星が虹色になってる気がするんだけど」エス君は椅子にしがみつき窓の外のアール星を見つめながら言った。 「そう? 廃油かなんかの色よ」  アール星が遠ざかると二人の逆立った髪の毛は元に戻り、天井に張り付いた携帯も剥がれ落ちてきた。エス君は慌ててベルトを外して床に衝突する前にキャッチした。
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