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その隙を作るのにこの体は大いに役立ってくれるだろう。
「ロック」は唇の端を歪めて笑顔を形作った。
体を変えるよりもそのままで居た方がどう考えても都合がいい。
灯台に腕自慢達が意気盛んに乗りこんで来るのが見えた。怒りを顔に貼りつけてはいながらも、躊躇いの無い足並みで正面から入ってくる。
目元にも歪んだ笑みがひろがった。
ああ、なんて馬鹿な連中だろうと。
灯台を覆う蔦が波打つ。
直後響く悲鳴が音色となって、走る稲妻を凶器的に引きたてる。
「『しかし……』」
自分の知り合いが町を破壊すれば、来るだろうと思っていたが、勇者は一向に現れない。かといって、痺れを切らしたという訳ではないが、ひょっとすると町の人間にはそこまで思い入れはないのだろうかとも思えてくる。
だとしたら、自分のやっている行為は果てしなく無駄な行為だ。それどこか、待ちぼうけになる可能性がある。この体が壊れるまでもう時間が無いというのに。
まだ続けてみるか、それとも自分の知り合いの体が壊れても構わないのかと触れまわるか、集まって来た人間達を煽って差し出させるか。
丁度よく、見物人も集まっている。ここで一つ、灯台に乗りこんで来た者達の末路を見せつけ、恐怖感を煽って、勇者以外に興味は無いのだと誑かしてみるか。
そんな事を考え始めた時だった。
意識を逸らした方向、灯台の外から伸びた一本の軌跡が、借り物の肉体を裂いた。頬に切れ目が入り、破れ血が流れ出る。
「『……?!』」
壁に突き刺さった物を確認する余裕は無かった。魔力を帯びた飛来物が続けて灯台に飛び込んで来たからだ。咄嗟に物陰に身を隠した「ロック」が見た物は弓矢だった。
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