第四話 信じたい物

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「と……鳥が喋った」 「ジン!」  ずっと黙っていたアラシが一括する。けれどもジンは黙らない。 『良い予言は受け入れて、悪い予言は非難か? 都合のいい事だな』 「ううううるさい! こいつの予言は確かによく当たる。……でも、考えて見ればおかしいじゃないか?! 何でもかんでもぴたりと当てて……。本当は影で予言が上手くいくように画策してるんじゃないのか?」  言いがかりだと、ジンは答えたかが当の本人は黙したまま言葉を聞いている。 「そうだ……そうなんだろ! そうに決まってる!」  自分に言い聞かせるように叫ぶ少年は言わねば気が収まらない様子だった。 「じゃなきゃあんなに当たるはずがない……」  村はずれの事故を予言した。今朝その通りに死んだ村人。 「予言通りに人が死ぬわけない」  リックの中は自分の中にある得体のしれない感情を殺すかのように声を憤らせた。 「予言が当たらなければ代金はいらないだ? 外れるわけねえよな。あんたが全部やってんだろ! そうなんだろ」  反論しようとするジンの嘴を開かないようにアラシは硬く握り、静かに口を開いた。 「では、貴方のお母様に対する予言は当たったとしても、お支払いいただかなくて構いません」  くるりと踵を返し、一口も食べることが出来なかったパンを拾い上げはらって土を落とす。 「僕も些か調子に乗りすぎました。そこまでの予言は控えるべきでした。けれども……」  完全には少年の頬を向かずわずかな横顔だけ少年に向ける。 「僕も願っているのです。予言が、実現しないことを」 「じゃあ、どうして予言をするんだ! 仮に本当にそれが起こるとして……」 「信じたいのですよ」  再び少年に背を向け青い空を仰ぎ見る。 「変えられない運命など存在しないのだと」  子供とは思えないほど憂いを帯びた声は少年に次の言葉を許しはしなかった。  一歩、二歩と歩き出す。  その歩みが決められたレールから外れることはないのだと知りながら……足早にアラシは石畳の上を歩いて行った。
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