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第五話 魔王の使い
手にした金貨の重さと、渡す人の思いが反比例していることに気づいたのはいつだったのか。
随分と昔なような気がして覚えていない。それで良かったかも知れない。百年を越える時を過ごすラフェンツにとって、記憶力がそこまでよくないということは幸運だった。でなければこの寂しさはもっと大きな物になっていただろう。
町に来て五日も立てば、町の外で一人で遊ぶラフェンツの姿が目立った。
この町に来た時大人はラフェンツに何かと世話をやいたし、子供達はラフェンツと遊びたがった。最初は子供の旅人が珍しいから、というのが大きかったのだろう。
建物の影で子供が自分の方を見ているのに気が付いて、にこりと笑みを向けた。笑みを向けられた子供も答えるように笑い、走りよって来ようとする。けれども周りの大人がそれを止めた。そして、煙たがるようにラフェンツから引き離す。
一撃で岩を砕く怪力はどの町でも最初は重宝される。けれでも、それは最初だけ。頼むことがなくなり始めると、最初の興味は恐れへと変わっていく。
それは寂しかったが、少しだけ嬉しくもあった。自分が力を発揮する必要がないほど、自分は役に立てたのだと。
そろそろ他の町へ行く頃だろうか、そんなことを考える。
「どうしたの、そんなところで」
声をかけてきたのはラフェンツの泊まっている宿屋の女性だった。寂しげにと母親に連れられて行く子供を見送るラフェンツに優しく笑いかけ、手にしていた紙袋からパンを取り出して小さな手に手渡した。
「ありがとう。おねえさん」
おねえさんという単語に顔をほころばせる。おねえさんと呼ばれるような歳ではなかったが、いくつになってもそう呼ばれるのは嬉しい。お世辞を言ってるようには見えない無邪気な笑顔が嬉しかった。
ぱくりとパンにかぶりつくラフェンツはただの子供だった。町の人間が不気味なものを見る眼差しでラフェンツを見ていることを知らないわけではなかったが、何度見てもこの子が悪い子には見えなかった。
いつも深く被った帽子のせいでラフェンツの耳は常に隠されている。それが噂に火を注ぐ元にもなっていた。魔物や魔族で人型をしているものは、どんなに人間に姿を似せても、耳に特徴が残るケースが多い。帽子を取れば、少しは皆もラフェンツに対する疑念が晴れるかもしれない。 女性はパンに夢中になっているラフェンツの頭に手を伸ばした。これを脱がせばラフェンツの正体もはっきりする。
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