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「人を探しているんだけど、教えてくれないか」
悲鳴とともに叫ばれる命乞いを完全に無視して、青年はもう一本の腕で女性の頬をなぞった。
「褐色の肌で突き出した耳の少年をみなかったか。いやあ、最後に見たのは百年前だからもしかしたら男かもしれないなあ。けけけけけ」
何が可笑しいのか青年は喉の奥でまた気持ちの悪い笑いを漏らした。男にしては甲高い声、神経に触る音。
「あ……」
「ん? もしかして当たり?」
青年は女性の頭をがしりと掴み、瞳を覗き込む。
「やっぱり、ここにいるんだな」
声が若干弾んだ。
「あの方の言うとおり。そっか、ようやく見つけた。これであの方に喜んで貰える」
女性の身体が無造作に投げ捨てられる。引き抜かれた青年の右腕は腕の形をしていなかった。先が鋭い刃の切っ先のようになっており、引き抜いて少しすると人間の腕と全く同じ形状になった。放り出された女性の傷痕から盛大に血が噴き出す。
「百年間もの間ずっとこの大陸にいたのか、あいつは」
血を服で拭い歩き出そうとして歩みを止める。誰かに見られている視線。
続いて男にかけたれた声は冷ややかだ。
「未来は変わらない」
場に姿を現していたのはアラシだった。肩に鳥のジンを乗せたまま、アラシはじっと青年見つめ、青年もまたアラシの眼を見つめた。青年は首を横に倒す。
「けけけけけけけ……」
気味の悪い笑いが口から零れる。
「初めてお会いしますね、魔王の使いよ」
青年は首を直角に曲げたままアラシを凝視している。アラシは手にはめている手袋を外し、手の甲を青年に見せた。そして額にある印を見せる。青年の口から漏れていた笑みが止まる。
「僕はアラシと申します」
青年が動く、再び腕を刃に変形させてアラシに飛びかかった。アラシは手袋をはめなおしながら距離を取ると帯剣している剣を抜いた。剣の刃はとても澄んでいた。
「未来は変わらない。これもまた定められた未来」
子供とは思わない程、冷めた達観した口ぶりだった。
「それでも僕は自分の意志で貴方に剣を向ける」
剣を地に刺しアラシは口の中で呪文を紡いだ。剣の刃に魔法文字が広がっていく。
「けけけけ魔術師か」
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