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第六話 変えたい未来
アラシの剣が炎に包まれる。だが、剣に炎を宿したまま行動を起こそうとはしない。
「ここでラフェンツを消すことは、貴方には出来ない。それは定まったこと。これから三度、貴方は彼と戦うことになる。でも全ては徒労に終わるだろう。でも一つだけ貴方の望みの叶う選択がある」
アラシが行動を起こさないからといって、青年が行動を起こさない理由にはならない。青年は嬉々としてアラシに切りかかった。
「貴方は何の為に魔王に仕えるのです」
変形した腕を燃える剣身で受け止めて流す。反撃は行なわない。
「その先にあるのが希望でないことは分かっているのに」
ほんの僅かだった。ほんのわずかだったが、青年の腕の軌道が乱れる。アラシはそれを見逃さなかった。腕を剣で払い上げ、剣を横に振るう。青年が地面に着地した時、直撃はしていなかったが青年の鎧は真一文字に溶けていた。
「引きなさい。力を封印した状態で勝てるほど僕は甘くありませんよ。勿論光の勇者にも到底叶いません」
「予言の一族に生き残りがいたとは」
けけっと笑いを貰いし、アラシを凝視する。額にあるのは予言紋。預言者が生まれながらに持つ神の使途である証。
茶色の瞳に憂いが宿り剣先が下がる。
「予言者は勇者とともに魔王の元へ辿りつく。それは決まっているんです。僕の導きを止めることはできない」
アラシと青年は数秒黙り込んで互いの眼を見つめていた。悲鳴を聞きつけた町の人間が集まり始めている。青年は逃走した。
後姿を見ていたがアラシは直ぐに町の人間に向き直り、笑顔になった。町人達は逃走し人外の青年の姿と、アラシが持つ燃え盛る剣を見て今会った事を推測する。感嘆の声を上げる町人。
だが、アラシが口にした言葉はとんでもない一言だった。
「今すぐ町を出なさい。振り向かずに山に向かって走りなさい。それしか貴方たちが助かる術は無い」
路地の方から獣の叫び声のようなものが上がる。
「な、なんですか今の声は」
自分より年下のアラシに丁寧語になってしまうのは仕方が無い。今のアラシは大人でもひるませるほどのぴりぴりとした緊張感を帯びていた。
「ラフェンツが町に侵入してきた魔物と戦闘に入ったのでしょう」
町人が顔を見合わせる。
「でも、彼には魔物を殺すことは出来ません。この数の魔物はさばけない。貴方達を守る事なんて彼には出来ません」
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