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アラシはいつもの温和な笑顔を保ったまま人々に継げた。笑顔が逆に町人の恐怖をかり立てた。大半のものが状況を理解しないまでも危機を感じ取り一心不乱に山へと走り始める。一人が走りだせば皆一斉に後を追った。
「これでいい」
山へと走る人々を一瞥し、迫ってくる魔物の足音に耳をすませる。
「予知ではみんな町の中で死んでいた。山へ向かえばきっと助かる。助かって貰わないとこの先ラフェンツ、彼は……」
『来るぞ』
肩の上で黙ったままだったジンが警告する。音が大きくなるにつれ地面が揺れた。
「相当な数だぞ、お前にやれるのか」
「予知で履修済みですから」
『だが無傷でいられる保障はないだろう。ここで無理をしなくても、お前もあの小僧も死ぬ事は無い』
「確かに」
アラシは苦笑した。
「でも、変えたいんですよ。僕は未来を」
剣の炎が勢いを取り戻す。
「死ぬことが分かっているからこそ、見殺しには出来ない。もし、ここで僕が死んだらそれはそれで構いません。運命が変わる可能性が出てくるんですから」
『俺は力を貸さないぞ』
「構いません」
剣を構え、やってきた魔物の群れと対面する。黄金のたてがみと鋭い牙や爪を持つ魔物。それは本来群れで行動する魔物ではなかった。
『おいおい。これ……本当にあの小僧は無事なのか』
「の、筈なんですが」
苦笑を浮かべずにはいられなかった。目の前にいる魔物の群れはけして数えられる数ではない。
『予知で見たんだろ』
「部分的な予知ですからね。少なくは無いと思っていましたが、ここまでとは」
剣を切り込んでいては間に合わない。魔物の攻撃をかわすことに専念し、通り過ぎざまにで流すように切りつける。致命傷にはいたらないが、町の奥へ侵入する魔物は減らすことが出来る。だが、それは自分に狙いを定める魔物を増やすことに繋がる。
「手、貸した方がいいか」
前言を早々に撤回してジンはアラシを見る。
「お気持ちだけ受取っておきます。それよりここにいては貴方も危険です」
「……」
ジンは黙り込んだ。もう肩に止まっていられる状態ではない。上空から暫く戦うアラシを見下ろして意をけっしたように町の入り口の方へと飛び去る。
上空から見た町の四方からは魔物の群れが押し寄せてきていた。
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