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「迷う? お父さんもお母さんも一緒にいるよ」
無造作においてあった剣をラフェンツはひょいっと抱えあげる。
「え、いつの間に来たんだ」
驚ききょろきょろと人影を探そうとする少年をよそにラフェンツは抱えていた大剣を差し出す。
「これがぼくのお父さん」
少年がフリーズする。次に何言ってんだこいつという目になり……ラフェンツの次の言葉でそれは同情へと変わった。
「これが僕のお母さん」
それは首から下げられた小さなペンダントだった。
「ずっと三人で旅をしてるんだ」
声が明るくなれば明るくなるほど、少年は同情の念を強めていく。
「お前のお父さんとお母さんって」
「ぼくが産まれた時に死んじゃったんだ。だから……形見のペンダントと剣がぼくのお母さんとお父さん」
本人に気にした様子はないのに、おかしなもので少年は悪い事をしてしまったように俯いて、
「ごめん」
とただ一言呟いた。 ラフェンツにしてみれば、理解出来ない反応である。
「宿代、かあちゃんに話してみるよ。かあちゃんてっきり迷子だと思ってたから親に請求する気でいたみたいだし」
「ちゃんとあるよ」
ラフェンツは荷物袋から皮で出来た汚い袋を取り出して逆さまに振った。
銅貨が一枚と小銭が少し。
「……」
「どうしたの?」
「全然足りない」
子供料金は一晩銅貨五枚だ。まけるにしてもこれでは厳しすぎる。
「大丈夫。いつもお金は現地ちょーたつなんだ」
太陽のように笑うラフェンツの笑顔は、ラフェンツ自身が描いたお母さんグリズリーの笑顔によく似ていた。
だが、少年は悩んでいた。滞在中にだって宿泊料金は嵩むのだ。それに……。
落書きで埋め尽くされた部屋、それを母親にそう説明すればいいのか。
少年は頭を悩ませた。
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