第三話 金貨の価値

1/2
前へ
/64ページ
次へ

第三話 金貨の価値

 宿屋の少年、リックの心配は無用だった。落書きだらけの部屋はともかくとして、ラフェンツは宿泊料金を稼ぐための仕事を早々に見つけた。最初は半信半疑だったリックもラフェンツの評判を聞くにつれて料金を心配することはなくなっていた。  ラフェンツの朝は早い。  朝、太陽が登り始めていないうちにベッドを抜け出すと、外へ出て行く。朝食は早すぎて用意されていないため、前の日に買った林檎を齧りながら仕事へ向かう。 「おはよう、ラフェンツ。今日も早いですね」  大抵、朝街の噴水広場を通り抜けようとするとアラシと鉢合わせた。朝が苦手だと言う割には毎朝ここでぼーっとしていることが多かった。 「おはよう、アラシ。おはよう、ジン」  ジンはいつもアラシの肩に止まっていて、朝でもアラシに比べると断然元気だ。アラシは起きているのか寝ているのか分からないぐらいに目を細め殆ど動かないが、ジンは羽の手入れに余念がない。  逆にアラシは夜の方が元気だ。重くはないが低血圧なので頭がはっきりするのどちらかといえばは深夜らしい。一方ジンは鳥なので夜目が聞かないせいか、早々に寝てしまう。  ラフェンツはアラシと会話した後、街外れに向かった。宿から真っ直ぐ向かった方が本当は早い。だが、方向音痴なせいか宿からだと目的の場所に辿り着けず道に迷ってしまう。その為、真っ先に噴水広場に向かうのだ。建物などに施された装飾のデザインが、噴水広場に人を無意識に向かわせるようになっているため、意識せずに歩くと広場に辿りつける。後は、そこから仕事を斡旋してくれた人に教えた通りに歩くだけ……なのだが。 「今日はまだ早い方だな、坊主。大分慣れてきたか」 「ちょうちょさんがこっちに飛んで来なかった?」  きょろきょろと辺りを見回すラフェンツにしている仕事の責任者である親方は苦笑した。どうやら、ラフェンツはまた来る途中で別の物に気を取られていたようだ。それでも、待っていたのは……彼にしか出来ないことがあるからだ。 「今日はあの岩を頼めるか」 「うん、いいよ」  返事はあっさりとしていた。周りで作業している男達はぎょっとした顔でラフェンツを見た。  彼らの仕事は、先日起きた地震で起きた瓦礫を取除く作業だった。取除かなければ隣の町へいくための安全な道がない。いや、あるにはあるのだが、生い茂った暗い森を抜けねばならない。崖崩れの心配はないが、いつ魔物に襲われるか恐怖に怯えることになる。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加