第三話 金貨の価値

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 ラフェンツが頼まれたのは、崖と崖の間をすっかり埋めてしまう大岩だった。大人が4、6人束になって持ち上げるのも不可能なら、壊すのだって用意ではない。最初の日にラフェンツが持ち上げた岩はこれの三分の一サイズのものだった。その剛腕っぷりを見た親方が街にいる間、手伝いに来てくれれば働きに応じた報酬を出すことを了承したのだ。 「大きいね」  向こう側を覗こうとするかのように手を額に当てて背伸びをする。両の眼はきらきらと輝く。  きっとこの街に来て一番の楽しみを見つけたのだろう。 「この間の3倍かなあ」  表情はいきいきとしていた。  マントを外し、背におっていた大剣を地面に降ろす。ここに来て始めて抜くことになる。  大人でも抜くのに苦労しそうな剣はラフェンツの肩幅と同じだけの幅があった。鞘に足をかけ、蹴飛ばす。そうでもして抜かないと子供の短い手足では抜けない。 「危ないから下がってて」  実に子供らしい無邪気な笑顔だったが、その中に得体のしれないものを感じ。男達は後ろに下がった。  軽々と構える大剣はさほど丁寧には手入れが施されていない。少なくとも刃はここ数年磨がれてはいないだろう。刃こぼれをおこした剣は岩を切るには不向きだ。そもそも剣で岩を切ること自体が剣を傷めるだけの行為だが。  筋肉とは縁遠いぷくぷくとした腕にぐっと力を入れ、剣を横に振り払う。いや、思いっきり殴りつけたという方が正しいかも知れない。  柔らかくはない筈の岩に大きな亀裂が入る。二回、三回と殴りつけるたびに岩の破片が飛び、亀裂が広がった。  五分はかからなかったと思う。  並みの男十人で破壊作業を行って一週間はかかるだろうと思われた作業を五分で行う少年に流石の男達も脅威を覚える。今これだけの怪力を持っているというのなら将来どうなることか。末恐ろしいと誰もが思った。  ずり落ちそうになった帽子を慌てて左手で抑えると、右手をじっと見つめた。振動のせいで腕が痺れている。この分では今日は、他に転がっている岩の撤収作業を手伝うのはもう無理だ。一日も直るのにかからないだろうが感覚が無い。 「いや、助かったよ」  引きつった笑顔で親方はラフェンツに礼金を渡した。金貨が3枚。手伝いに来て始めて貰った、小銭や銅貨以外の硬貨だ。手に乗せられた硬貨を見てラフェンツは少し悲しそうな顔をした後、にっこりと笑って親方に手を振った。 「また明日も来るね」  見送った親方の周りに男達が集まる。 「金貨って……ちょっと渡しすぎじゃないんですか」 「仕方ないだろう、見たかあの怪力。異常だ。それに見たか、さっきの表情。昨日までは銅貨でも大喜びしていたくせに」 「ああ、不服そうだったな」
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