番外編

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「ここを出る?」 「え?」 「俺もべつにいたいわけじゃないし。出る?」 「え、でも……」 戻りたくないのは山々だけど、さすがに躊躇う。 だって山梨さんを置いていくわけにもいかないし、それなら帰る口実を作らないといけないから。 迷う私をよそに、朔はスマホを出してどこかに電話をかけた。 「あ、山梨。 俺らこのまま帰るから。稲川は7時の予約だった? そこだけ顔を出す」 『はー!? なんやそれ! 今お前どこやねん!トイレちゃうんか!』 「もうタクシーの中。お前そこの店員と知り合いなんだろ? 昔話もあるだろうし、あとで少しなら聞いてやる。じゃあ」 朔は言うだけ言って通話を切り、エレベーターのボタンを押した。 「ちょ、ちょっと! いいの?山梨さん……」 「いいんじゃない? あいつ店員の男と知り合いみたいで、なんか話し込んでたし」 「え……」 その男って、まさか私の昔の男のことだろうか。 なにも言えなくなる私を横目に、朔はエレベーターに乗る。 「乗らないの」という無言の問いに、私も無言でエレベーターの中に足を踏み入れた。
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