番外編

8/21
前へ
/21ページ
次へ
次に山梨さんの目に留まったのは、そのビルの奥、細い路地にあった大きな路面看板だった。 「なんやこれ!」と山梨さんが騒いでいるけど、たしかに山梨さんじゃなくても目を引く。 元々キャバクラ勤めでこんな看板は見慣れている私でさえ、思わず見てしまったから。 「忍者喫茶」の文字に、忍者の格好をした女子が、手裏剣を手にこちらを見ている。 「なにこれー!めっちゃ面白そうやん、ここ行こうや!!」 「行きたいならお前だけで行け」 朔が間髪いれずに言った。 さすがに堪らなくなったんだろう。 私も同感だったけど、山梨さんは朔を全然相手にしない。 「なんやねん、お前俺がアヤちゃんとデートするって言ったら、興味ないふりして、どこで待ち合わせか聞いたくせにー。 やから気をきかせてお前も混ぜたっとんのに、えーんか? お前帰ったら、俺もう一度アヤちゃん口説くで?」 笑う山梨さんに、朔は表情を変えずにため息をつく。 ……今の話、どこまでが本当なんだろう。 私が拒否するという考えは浮かばないのか、山梨さんは私の手を取り、朔を追い払う仕草をした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加