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「帰りたいなら帰れー!
その間にお前の悪口アヤちゃんに吹き込んどいたるわー。
じゃアヤちゃん、行こか」
「えっ、山梨様……!」
さすがに元お得意様だから無碍には出来ないけど、内心焦りつつ後ろを見れば、少し遅れて朔がついてきていた。
「なんやお前、やっぱり俺らと遊びたいなら素直になれっちゅーねん。
ほーんま、愛想ないやつやでー」
無言の朔にからからと笑った山梨さんは、店に続くエスカレーターに乗り込んだ。
降りた先、店のドアは真っ黒の引き戸で、開ける前からなにが出てくるのかわからない怖さだ。
こわごわと引き戸を開けた途端、目元だけがあいた、覆面の忍者と目が合った。
「お帰りなさいませ、殿!! 姫!!」
叫びながらこちらに駆け寄ってきた忍者のすばやさに、驚いた私は一歩後ずさった。
でもさすがは山梨さん。
こういった店に来たがるだけのことはある。
「おお!ここは客のことを殿って言うんや、ええなそれ!
おお、くるしゅうない、殿のお帰りやでー!」
出迎えた忍者より大きな声の山梨さんは、あっという間に場の雰囲気に馴染んでいて、完全に私と朔は置いてきぼりだ。
店内はすべて畳の席で、真っ黒のお膳台に、座面椅子がずらっと並んでいる。
それなりに雰囲気は出ているけど、座ると姫というより、悪代官にでもなった気分だった。
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