1412人が本棚に入れています
本棚に追加
/431ページ
夢の中の泰志が言う。そこへ十歳の千世が、どこからともなくやって来た。
『泰志、泣かないで。ぼくがそばにいるから』
この頃はまだ千世の方が背が高かったから、泰志の頭をぽんぽんと撫でて宥めようとしていた。父親がよくそうしてくれたみたいに。
『千世にぃはさびしくないの?』
「さびしい……淋しいよ。でも泰志がいる。泰志にもぼくがいるから、大丈夫だよ』
兄として、弟の前で涙を見せまいと必死だった。本当は思いっ切り泣きたいけど、それは弟にだけ許される。そんな気がしていた。
『ね、泰志。笑おう。お父さんもお母さんも、いつも笑ってたでしょ。ぼくたちが泣いてたら、二人とも安心できないよ?』
『千世にぃ――うん……!』
最初のコメントを投稿しよう!