第一章

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 夢の中の泰志が言う。そこへ十歳の千世が、どこからともなくやって来た。 『泰志、泣かないで。ぼくがそばにいるから』  この頃はまだ千世の方が背が高かったから、泰志の頭をぽんぽんと撫でて宥めようとしていた。父親がよくそうしてくれたみたいに。 『千世にぃはさびしくないの?』 「さびしい……淋しいよ。でも泰志がいる。泰志にもぼくがいるから、大丈夫だよ』  兄として、弟の前で涙を見せまいと必死だった。本当は思いっ切り泣きたいけど、それは弟にだけ許される。そんな気がしていた。 『ね、泰志。笑おう。お父さんもお母さんも、いつも笑ってたでしょ。ぼくたちが泣いてたら、二人とも安心できないよ?』 『千世にぃ――うん……!』
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