第一章

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「はぁ……」  あの日以来溜息をつくことが多くなった。こんなことがいつまで続くのかと思いながら居間に下りると、もうそこに泰志の姿がある。 「おはよ、千世にぃ」  その笑顔は五日前のいざこざを全く感じさせないほど清々しい。どうやったらそんな風に振る舞えるのかが謎で仕方なかった。  千世は上辺だけの挨拶をしていつものように台所で祖母の手伝いを始めるが、これも上辺の行為でしかない。『いつも通り』を装わなければみんなを不安にさせてしまう。『いつも通り』のことをしないと、自分が保てなくなりそうだ。  まさか日常が恋しくなる日が来るなんて、と千世はまた溜息を()いたのだった。
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