第二章

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 千世は窓枠にそっと手を付いて瞼を閉じた。  シャッター音はここまで聞こえてこない。もう写真は撮ったのだろうか。それとも良い構図を考えてまだ位置を調整している? 「ちーせ。こっち向いて」  その声はすぐ近くから聞こえた。自分がどのくらい眼を瞑っていたのか定かではないが、彼はもう写真を撮り終えたのだろう。千世はゆっくりと眼を開けて、声のする方へ視線を上げた。  ――カシャッ  その瞬間、カメラのシャッターが切られる。不意打ちだったにも関わらず、何だかそうなる予感がしていた。橙色の光に照らされて深い影を落とす廉佳の顔は憎らしいほど穏やかだ。 「ほら、良く撮れてる」 廉佳が見せてくれたスマートフォンの画面には、眉尻を下げて笑う自分の姿が映っていた。
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