第三章

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「千世?」 「千世にぃ?」  前方から二人の声がする。  いつの間にか千世の歩みが遅くなっていて、追い越されてしまったのだ。二人が心配そうに振り向いている。  何でもない、と答えてはぐらかすには勿体ない気がして千世は二人の間に駆け寄った。 「僕、今日すごく楽しかった。コスプレは恥ずかしかったけど、来てくれた人に喜んでもらえて良かった。でも楽しかった一番の理由は、廉佳さんと泰志が一緒に居たからだと思うんだ」  それぞれの腕に飛びついて言うと、二人は眼を瞠って魂が抜けたような顔をしていた。それがおもしろおかしくて、千世は朗らかに笑う。 「千世にぃ、今日は本当にどうしちゃったの?」 「明日は雪でも降るんじゃないか?」 「失礼だなぁ。でも今日だけの特別だからね」  こんなことを言ってしまうのは、コスプレをしたせいで羞恥心が一時的に薄れているから。イベントで気分が高揚しているから。蒸し暑かった会場の熱気にやられてしまったから。  そして、廉佳と泰志が好きだからだ。 「ね、早く行こっ」  二人の腕を引いて大股に歩き出す。いつもは二人が千世の先に立っているからこうして先導するのは初めてだ。  廉佳と泰志の戸惑ったような笑顔が新鮮で、疲れたはずの千世の足取りはどんどん軽くなっていくのだった。
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