第一章

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 こういう時、自分が弟より背が低いことが悔しくてたまらない。まるで泰志が兄のようだ。  切羽詰まった千世は立ち尽くすことしかできなくて。 「どこ行ってたの?」 「だから何でもないって――」 「廉にぃのとこ?」 「そっ、そそそ、そんなんじゃないよ!」 (うわ……今の、あからさますぎる)  嘘をつけない性分が災いして、口では否定しながらも態度で露骨に肯定してしまった。  泰志は何と言うだろうか。普段はにこやかな彼が無表情で千世の眼を見据えているのが妙におっかない。 (いや待てよ。何で僕がこんなにはらはらしなくちゃいけないんだ?)
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